戯曲「真と嘘」


「真らしき嘘はつくとも、嘘らしき真を語るべからず」
「なんだよ藪から棒に。なんだよ、べからずってよ」
「嘘らしく現れる真とは即ち嘘であり、真らしく表現された嘘とは即ち真である」
「なんだよスナワチとかよ、である、とか言うなよ」
「って小林秀雄が言ってたぞ」
「また小林秀雄かよ」
「正確には、家康が言ってたって小林が言ってたぞ」
「結局、家康の発言ってことか?」
「家康のソウルを小林が蘇らせたって事だ」
「ソウルとか言うなよ、めんどくせえからよ」
「小林が無私の精神で家康を書いているから家康だけど小林なんだよ。小林だけど俺なんだよ」
「無私はもういいわ。あといきなり出てきた俺もいいわ」
「おい、聞け」
「いいよ、急いでるからよ」
「手短かに言ってやるから聞け」
「俺に言わねえで、てめえの手帖にでも書いときゃいいだろ」
「すでに書いてある」
「じゃあいいじゃねえか」
「ちょっと聞いてくれよん」
「……手短にな」
「概念としての真や嘘があるのではなく、表現されたそれ自体が真か嘘か、だ」
「だ、って言われてもな」
「これは、真と嘘についての含蓄ではなく、行動の覚悟についての問題だ」
「うーん…」
「って事か?」
「質問だったのかよ」
「自問自答だよ」
「手帖に書いてろよ」

by ichiro_ishikawa | 2009-11-14 04:11 | 文学 | Comments(3)  

Commented by 1からのファン at 2009-11-15 01:07 x
最後のオチ、素晴らしい。
会話的にもおちたし、思想的にも核心ついた素晴らしい出来だと思う。ロックンロールブック2になってからとてもおもしろい。やはり色々な形式で書いていると単純に楽しいです。
Commented by he get at 2009-11-15 10:28 x
ロックンロールブック3が楽しみです。
Commented by ステイトオブメイン at 2009-11-16 01:43 x
好きです。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

<< エセー「デリカシーのない男」 短編「すべる話」 >>