ミステリー「立ち話」


「精神不安定ネタが続いているから結構周りが心配して治癒しようとしてくれるんだ」
「ネタだったのか」
「当たり前だ。苦しいことなど人に語らずドブに捨てちまったら一生だんまり決めるタチなんだから俺は」
「いつもそれ言うが、むしろ誰よりも語っているように思えるぞ」
「芝居だろそれは」
「何か哀れだな。周囲は優しさもあろうが、精神不安定なやつと接しても面白くねえからっていう意味が強いだろうな」
「精神が安定しても、そも面白くねえ人間だがな」
「やめろよ、自虐キャラは」
「これは俺が20代の頃に培った芸風だ。でも実はこれはイギリスでは“self‐deprecation”って言って、大人の嗜みのひとつだってピーター・バラカンが言ってたぞ。だから自虐というか自嘲だな。モリッシーとかの十八番だな。モリッシーは自分のイチモツのことを“何かのむごい成れの果て”って言うんだ」
「あそこまでユーモアと言葉のセンスが飛び抜けていればいいが、お前は中途半端なんだよ。折角30代に入ってPOPになってきたのにな」
「それは大滝詠一がはっぴいえんどや“福生ストラット”を経て、33歳で『Long Vacation』を作った、みたいなアーティストの自然な流れだな」
「お前はいつも偉人とてめえを重ねるけど、負けが込んだ年収250万のサラリーマンだという事を忘れるな」
「でも本質的な質と年収が比例するなら、本来5億だけどな」
「本質的な質ってなんだよ」
「知らぬ」
「とりあえず本質とか言えばいいと思って、結構、何も分かってないよな」
「分かってはいる」
「じゃあなんだよ」
「言葉に出来ないだけだ」
「言葉に出来ないってことは分かってないって事だってお前からよく聞くけどな」
「まあな」
「分かってないんだろ?」
「正確に言えば、気配は感じられてはいる」
「やっぱお前と話してても面白くねえわ」
「面白くねえって一番ひどい言葉だぞ。いくら屈強な精神の俺でも傷つくぞ」
「お前ほどフラジャイルな奴はいねえと思うがな」
「さっきから言わせておけば…、そういやここ最近登場する貴様は誰だ」
「俺か? 俺はな…」

to be continued...

by ichiro_ishikawa | 2009-11-16 19:00 | 文学 | Comments(0)  

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