エセー「健康な太宰治」


 「ヴィヨンの妻」に続き「人間失格」が映画公開され、角川文庫はカバーをすべてその主演のなんとかという輩の写真にするという世紀の愚行を犯していたりと、何かと太宰まわりが騒がしいが、かくいう私も毎日武蔵野の玉川上水の並木道を歩いていると、ふと太宰に思いを馳せることがある。
 そんな中、中井英夫の「黒衣の短歌史」の中に以下のような記述があった。
 ある文芸誌で「今年に何を望むか」というアンケートを試みた事があり、何十人かの回答者は「言論の自由」だの「実存主義の強力な展開」だの一通りの発言をしている中で、ひとり太宰だけが「−−何を望んだって何も出来やしねぇ」。例の通り、小気味良くふてくされてみせた。
 それを受けて岸田國士は、「あの答えがあの中で一番健康的だったね(略)、つまりあの言葉自体は不健康だが、あの場合ああいう風に発言する精神が健康なのだ」と、行き届いた解釈を加えたという。
 この健康な精神が太宰の魅力で、その辺りが映画に生きているか、見に行ってみようと思うが、おそらく確かめるまでもない。ビンジョー商売を皮肉ったタイマーズのゼリーの精神もやはり健康で信頼が置ける。この眼光がロックとか文学の唯一の存在価値だ。


by ichiro_ishikawa | 2010-02-21 03:48 | 文学 | Comments(0)  

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