引用「歴史の急所、文学とは」


 「吾妻鏡」の実朝横死事件の簡明な記録に続く文を引用したあと、小林秀雄は次のように綴っている。

 吾妻鏡には、編纂者等の勝手な創作にかかる文学が多く混入していると見るのは、今日の史家の定説の様である。上の引用も、確かに事の真相ではあるまい。併し、文学には文学の真相というものが、自ずから現れるもので、それが、史家の詮索とは関係なく、事実の忠実な記録が誇示する所謂真相なるものを貫き、もっと深い所に行こうとする傾向があるのはどうも致し方のない事なのである。深く行って、何に到ろうとするのであろうか。深く歴史の生きている所以のものに到ろうとするのであろうか。とまれ、文学の表す美の深浅は、この不思議な力の強弱に係わるようである。吾妻鏡の文学は無論上等な文学ではない。だが、史家の所謂一等資料吾妻鏡の劣等な部分が、かえって歴史の大事を語っていないとも限るまい。

by ichiro_ishikawa | 2010-05-31 01:44 | 文学 | Comments(0)  

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