名言「見事な理解」


「あいつは、ああいう奴さ」という。甚だ厭な言葉である。だが、人を理解しようとして、その人の行動や心理を、どんなに分析してみた所が、最後につき当る壁は、「あいつは、ああいう奴さ」という同じ言葉であるから妙である。
「子を見る親に如かず」という。わかる親もあれば、わからぬ親もあるという風に考えれば一向につまらないが、親が子をどういう風に見るかと思えば面白い。私という人間を一番理解しているのは、母親だと私は信じている。母親が一番私を愛しているからだ。愛しているから私の性格を分析してみる事が無用なのだ。私の行動が辿れない事を少しも悲しまない。悲しまないから決してあやまたない。私という子供は「ああいう奴だ」と思っているのである。世にこれほど見事な理解というものは考えられない。
小林秀雄「批評家失格 II」(1931年)

小林秀雄の批評は、全部こういう理解で成り立っている。

by ichiro_ishikawa | 2010-06-16 22:33 | 文学 | Comments(0)  

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