箸休めエセー「震災と俺」

 ここまで被害が甚大だと俺の被災など無いに等しいので黙っていたが、俺は俺で意外としんどいここ数日であったことをチョビッとしたためん。

 震災数日前から風邪をこじらせ、頭痛とめまいと下痢で疲労困憊しながらも会社でゴトシに勤しんでいた俺は、その日の昼、ランチを食いに行く振りをして病院に薬を処方してもらいに本郷三丁目駅付近のとある病院に向かっていた。が、なんと金曜午後はまるまる休診とあったため、かわりの病院を探すはめになり、近くの産婦人科に駆け込んだ。まあ、風邪の処方ぐらいしてくれるべ、風邪に男も女もねえべ。
 案の定、受付のばばあは「産婦人科ですけどいいですか?」。「そっちがいいならお願いします」と紳士な対応の俺。「では記入を」と促され、保険証を見せ、指定の紙に症状を記入している時、その大地震は起こったのだった。

 これは、でかい。ついに来たか…。これは負傷するな、でもうまい具合に病院にいるな俺…、と思うや否や、「出て!」と院長の怒声。え?こここそ避難所に相応しいのでは? しかし、隣には小学校の校庭があり、その手前には広い駐車場があるので、そこの方がベターとのことだった。
 頭痛とめまいと下痢でへとへとな俺は、ベッドで寝ていたかったが、医者が出ろというのに逆らう余裕はなく、駐車場へ避難した。だが、地面はいつまでもぐらぐらものすげえ揺れている。ただでさえ頭がくらくらしていたため、体感震度は28ぐらいだった。頭はがんがんいてえし、揺れで尻の力が緩まると茶色い水害が、という二次災害の危機もあった。これには屈強でならしているこの俺もさすがに耐えきれず、駐車場でへたり込んでしまったのだった。

 目にはクマ、頬はこけ、おまけに両手10本の指で、頭の各部分を指圧している俺を、周囲は放っておかなかった。
「大丈夫ですか?」「救急車呼びますか?」みな、親切だ。「いや、及ばない…というか、さっき病院を追い出されたのだ…、それに地震で被災したわけでなく、地震前からこの状態なのだよ…」と、説明したくてしょうがなかった。そうでなければ、地震のショックで具合が悪くなったヘタレ野郎と見なされてしまう。いや、すでに見なされている…。屈辱だ…。だが、産婦人科のくだりとか正確に叙述する余裕は全くない。仕方ない、いいよ、ショックで具合が悪くなったと思っていればいいよ…。屈辱、恥辱…。

 ああ、ドタマがいてえ、気持ちわりい…、口と尻から同時にゲボが出そうだ…。でもこれは震災とは関係ないんだよ、だからみんなそんな目で俺を哀れまないでくれ…。

 そんな複雑な事情を抱えた3月11日金曜日、午後3時であった。

by ichiro_ishikawa | 2011-03-24 01:44 | 日々の泡 | Comments(0)  

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