小林秀雄と政治

 小林秀雄が政治を直接主題とした作品には、「政治の文学支配」(東京朝日新聞・昭和12年6月)「政治論文」(朝日新聞・昭和15年11月)「政治と文学」(初出:昭和26年10〜12月『文藝』/収録:『常識について 小林秀雄講演集』筑摩叢書・昭和41年7月20日、『小林秀雄 現代人生論全集第七巻』雲華社・昭和41年7月25日、『文学・芸術論集』白凰社・昭和45年12月10日、『Xへの手紙・私小説論』新潮文庫・昭和37年4月10日、『常識について』角川文庫・昭和43年11月30日、『考えるヒント3』文春文庫・昭和51年6月25日)があり、特に「政治は虫が好かない、ただその虫の居所には気をかけている」が有名な「政治と文学」は、小林秀雄の政治観をよく表す代表作といえる。

 今夏の自由研究の最中に、全集未収録作品を所収する絶版本を多数Amazonn古書店で購入。俺はPrime会員なので早いものだと当日届く。その中で特に気になっていた作品の一つに、「政治について―鼎談/亀井勝一郎・河盛好蔵・小林秀雄」があって、早速読んでみた。骨子は、名作「政治と文学」と変わらぬが(「政治と文学」の4年後)、せっかくなので以下に抜粋する。

 政治という概念は大変あいまいですね。政治家といっても人間としてもあいまいな人種ですね。例えば八百屋さんとか、文士とかいうものは何をやっているかと言えばすぐ判るけれども、政治家というものは一体何をやっているのか。

 政治家というものは、何か偉いもののようにみんな思っているね。そういう考えをやめればいい。第一政治家というものは文化の生産の中にたずさわるものじゃないんだから。彼等は生産された文化を管理したり整理したりする役目でしょう。そういう人が何が偉いんだ。

 官僚には、事務という仕事があるが、所謂政治家というものは、実際仕事というものを、実体ある仕事というものを持っていない不思議な職業だな。仕事がないから、権力だとか支配欲とか、そういうものにどうしても捕らえられるのではないかな。人々が皆それぞれの生産にたずさわって暇がないのをいい事にして、そのすきに成功するという人種に見えるな。僕は、そういう人間が嫌いだ。みんな嫌っていいいと思うのだよ。

 或る機械的な組織が、非常な能率を上げるという場合、この組織を発明したのは人間だが、これが、だんだん発明者の手に負えなくなる、そういう事は実際に起こるだろうが、官僚組織の悪というものは、そういうものではないね。まるで人間の能率を低下させる為に工夫された組織みたいな恰好をしてますからね。やっぱりこれは大改革を要するでしょう。困難ではあるが、手に負えないというものではないでしょう。政府の行政改革がお題目に終るというのは、実行の困難に、実際にぶつかるのか、それともそんなものをやる気がはじめから全然ないとか実に疑われますね。。政治家は一向能率の上がらぬ官僚組織の上にあぐらをかいている方が、本当は気持ちがいいのかも知れないね。

 政治家は、文化の生産者ではない、生産された文化の管理者という所が根本だと思います。だから政治家の自己主張ということは、常に危険なんだな。自己主張は直ぐ煽動になる。集団的な権威の台頭になる。こういう考えは保守的な考えなのだが、政治の問題というものに関しては、僕は保守派だな。政治というものは常識が根本だと考えるからです、人間の個性の創造性ということでは、革命的なものも破壊的なものも認めざるを得ないが、政治の集団行為の中に革命原理というものを持ち込む事は、必ず不幸を招くと思う。残虐と暴力が常識を乗り越えてしまうのだ。(中略)やはり政治とは、衣食住の合理化の実際技術だと思うね。パーフェクトなものを決して追わず、若干の成果は確実におさめていくという道だと思うな。イデオロギーなど洗い落として、そこに常識と善意と努力が現れるという事でなければいけないという考え方です。

 ついでに亀井勝一郎のよい言葉も記しておく。

 政治というものは(中略)あらゆる人間の平均性というものに立脚したものでしょう。平均して徐々に生活もよくなればいいけれども、平均性というものをどこに置いて、それをどんなふうにつかむかということが政治技術だと思う。文学というものは平均性に対する反抗から出てきているから、私は絶対に相容れないものだと思うし、相容れないからいいんだという考えを持っている。

「政治について―鼎談/亀井勝一郎・河盛好蔵・小林秀雄」
(初出:NHK第二放送教養特集 → 週刊NHK新聞、昭和30年1月)
新潮社版第五次全集未収録
『小林秀雄対話録』新潮社一時間文庫(昭和30年7月15日)収録作品

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by ichiro_ishikawa | 2011-08-13 22:26 | 文学 | Comments(0)  

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