en-taxi 最新号

 文芸誌『en-taxi』で、リリー・フランキーが連載している「東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜」。
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 現在発売中の最新号。
 オカンが胃がんを告知された。
 あの、明るく、強いオカンが、「もう、死にゃあええ……」と初めて弱音を吐くほど、
闘病に苦しんでいる。

 私は、そのオカン、リリー・ママンキーに一度だけ会ったことがある。
1995年夏、今は存在しない音楽雑誌の新米編集者だった私は、竹中直人の新宿リキッドルームでのライヴ(高橋幸宏プロデュースの『メルシィ・ボク』発売ライヴ)のリポートを企画し、その執筆をリリー・フランキーさんにお願いした。私は当時、雑誌『クロスビート』などでの文章や、TBSの深夜コント番組「マージナルマン」の構成などを通して、リリーさんを敬愛しており、竹中直人の笑いを文章で解説できるのは、リリーさん以外に誰がいよう、ということで、周囲の「誰それ?」、「というかなんで竹中直人?」という反論を全く意に介さず、かつ論理的に彼らを説得することもせず、ただ単に素人発想で勝手に企画を進め、お願いしたのだった。
 偶然にも社内デザイナーが武蔵野美術大学時代のリリーさんの後輩で、その人を通じて、すんなりと執筆の許可をいただくことができた。企画趣旨説明にはわざわざリリーさんが会社まで足を運んでくれた。私が、「竹中直人の笑いをズバリ文章で解説してほしい」と言うと、それじゃ面白くないから、竹中さんの笑いを全くわからない女子と一緒にライヴを観て、「えー、わかんなーい」とか言う女子をボクがブつ、というのはどうだろうという、さすがの提案を即答でしてきた。ぼくは大賛成で、そういう記事にまとめることで一致した。
 だが、当日、適当な女子が見つからなかったということで、例の「マージナルマン」出演者で、当時リリーさんがジャケットデザインやCDプロデュースを手掛けていた宍戸留美さんを連れてきた。そして、困ったことに宍戸さんは竹中さんの笑いを一発で分かってしまい、普通にライヴを楽しんでしまった(それもそのはず宍戸留美さんは竹中直人の笑いの集大成であるTBSの深夜バラエティ『東京イエローページ』の出演者だった)。見事、企画倒れとなったけれど、趣旨変更で、まあ普通にリリーさんがリポートすることになった。
 しかし、当時からリリーさんは、大遅筆家で、締め切りを大分すぎても一向に原稿があがってこない。電話も留守電だ。編集長からは白い目で見られ、「どうすんの」と挑発され、新人の私は、ほとほと弱った。そこで、名刺を頼りに、リリーさんの笹塚のマンションで待ち伏せることにした。この笹塚のマンションこそ、「東京タワー」の舞台である。私は、アイスクリームを手みやげに、そのマンションを訪れた。出迎えてくれたのは、リリー・ママンキー。そのときは、まさかお母さんがいるとは思わなんだ(なぜいるのかは「東京タワー」にすべてが書いてある)。リリー・ママンキー、“オカン”は、非常に人懐っこい当たりで、私を部屋に入れ、麦茶を出してくれた。どんな会話をしたかは非常に残念ながら覚えていないが、まだ大学生でこんな新人の編集者の私を、とんでもなく厚く、そしてフランクにもてなしてくれて、恐縮しきりだったことを記憶している。
 結局、本人には会えなかったが、本当に「オチる」寸前に、玉稿をいただいた。
 遅筆家だが、オトしたことはないと豪語する、その伝説は本当だった。

長くなってしまったけれど、「東京タワー」である。
そのオカンが、今、苦しんでいる。私は、居ても立ってもいられないのである。
面識があるので、余計に情が入り込んでいるのを否定はしない。
だが、それを差し引いても、この偉大なる、普遍的な「母」という存在を、ここまで生き生きと描ききっている作品を、私はほかに知らない。
今号では、オカンはまだ生きている。
リリーさんが生まれた当時から始まった連載も、「今」は、2001年ということもあり、おそらく、次号が最終回だろうと思う。
どうか、死なないでほしい、と切に願う。

 人はいつか死ぬ。絶対的な事実である。だが、私たちは、「死なないこともあるのではないか」と、実は本気で思っているのではないか。私は実は思っている。そうでなければ、今、生きられないではないか。

by ichiro_ishikawa | 2004-12-30 01:52 | 文学 | Comments(4)  

Commented by ソンドラロック at 2004-12-30 02:03 x
母の存在も、母への愛も、万国共通普遍永遠なり。
Commented by acodigi at 2004-12-31 19:56
おもしろーい。ichiroさんの文章おもしろいです。
リリーさんの連載、読んでませんでしたが、読みます。
Commented by kara-kusa at 2005-01-18 01:20
私も死なないでほしいと思っているひとりです。
Commented by kanako at 2006-01-08 18:28 x
ハジメマシテ。
トラックバックさせていただきました(=゚ω゚)ノ
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