英語の発音と俺


俺は英語音声学をかじつてゐるため、発音にはうるさい。といふか英語の発音に造詣が深い。

英語と日本語の最大の違ひは、英語は「母音と子音がそれぞれ独立して発語される」といふ事と、「単語単位、文単位で強弱がある」といふ点だ。
この二つの点は、日本語と実にえらい違ひである。この違ひの距離に驚く事が何をおいても、英語の理解への第一歩である。

とはいへ、これは蛇足で、今回の本題は発音である。
以下、研究発表。長くなる予感。電車が最寄り駅に着くまでに果たして書き終るか。


日本語にない英語の代表が、舌を歯で挟む「th」で、
「the」、「together」、「three」、「teeth」などであるが、これらはわかりやすい部類だらう。また、唇を上の歯で噛む「v」「f」なども、日本語にないといふ点で、わかりやすい。人口に膾炙するところだ。

また、母音が日本語は「あ」「い」「う」「え」「お」の五音なのに対し、英語は「あ」と「え」の間とか、かなりの数がある。確か二十数種ある。これも馴染み深い例だが、つまりこれはどういふことかといふと、日本語は「あ」と「え」の間の音がよしんば発音されたとしても、それが日本語である限り、1)「どちらかといへばどちら寄りか」と、2)「文脈」によつて、五音のどれかに当てはめて認識するといふことだ。逆に英語人は中間的な音も厳密に峻別して認識するといふことだ。この違ひが興味深い。同じ人間だのに。

たとへば、「魂(たましい)」と発語するとき、「ためしい」のやうに「ま」を若干「め」寄りに発語しても「ためしい」といふ言葉はないといふ文脈的判断が働いて、きつと「魂」と認識されるだらう。
日本語は母音に関してはかなりざつくりしてゐるといへる。

とはいへ、まだ蛇足で、本当はここから本題。

母音でミソなのは、「love」とか「cover」などの母音で、カナ表記では「ア」とする事が多いが、実際は「オ」に近い。つまり「ラヴ」でなく「ロヴ」、「カヴァー」でなく「コヴァ」の方が実際の音に近い。
試しにアイラヴユーでなく、アイロヴユーと発音してみると後者の方がグッとネイティヴぽいことが分かるだらう。

要するに、日本語でも一見あるやうに思はれる音が、実際は日本語とは全然違ふ、実は日本語には「ない」音である、といふことに気づくのは良いことだ。
といふのが、とりあへず今回の骨子である。

子音においてもそうだ。

日本人が誤解しやすいのがカタカナでもある英語で、その代表が「r」「l」だが、本当のことを言へば、それ以外も、すべて、日本語にはないのであつた。

ぜんぶあげると疲れるからやめるが、その代表は「t」と「k」だ。日本語のタ行といふのは変則で、ローマ字にするとよくわかるが、ta, chi, tsu, te, toのやうに、子音の規則がバラバラである。これには実は面白深いワケがあるのだが、また蛇足になるので割愛。

「た」というのは逆に英語にはない。英語では「ツァ」となる。舌先を上の歯裏につけてこすつてtの音を出し、そこにアの音を足すのである。「た」とは舌先の位置とこすらせ方、勢いみたいなところが異なる。

難関は、kだ。日本語の「カ」と英語の「ka」も全然違ふのである。英語のkは、うまく言語化できないが、口の奥の方で何かを起こしてゐる。その擦り方といふか勢ひみたいなものが日本語のkより、かなり強いのである。

l(エル)は比較的容易で、これはtの仲間で、舌先の位置はtと同じ上の歯の裏。それをラリルレロで出せばよい。
しかし、これが母音とセットならそれでよいのだが、冒頭で述べた通り、子音単独で繰り出す必要があるときがあり、それが厄介である。

たとへば、その最高峰がclubである。
kurabuではないのは無論、kulabuでもない。
klabなのである。このときのaは前述したloveのアなので、正確にはオに近く、あえて発音記号でなくローマ字で表記すれば、klobとなる。
最終形を便宜的にklobとしよう。

ここで問題なのは、子音単独のkとbだ。
まづbはbuとuをつけなければいいので、ブでもバでビでもボでもないブ、を出せばよい。なんなら無理に発語せず、両唇を閉じて、その瞬間少し開ければよい。
最難関は実は最初にある。
kとlの組み合わせである。口の奥と入り口界隈で、瞬時に高度な連携がなされなければならないのであつた。これは言語化が容易ではない。疲れさうだからやめておく。
これはworldといふ、r+l+dの子音三連打と並び、日本人には無理な発音単語ナンバーワンのひとつなのであつた。
逆に言えばこれがうまく発音できると俄然ネイティヴぽくなるといふ寸法だ。


といふわけで、まとめると、
t, s, kのやうな日本語にもあると一見見える音が、「実は全く別の音」であるといふことだ。
破裂や摩擦が大きいのである。日本語は穏やかだ。
狩猟民族と農耕民族の違ひ、大陸と島国の違ひは、言語の発音にも表れてゐる。

最後に、俺が発見した英語発語法は、
口といふかアゴをすこししゃくらせ気味に、猪木的な形に常にしながら発語すると、発音しやすいといふことだ。
おそらく英語人は口が引つ込んでいるから、舌と歯の間が短く、だから破裂させたり摩擦させたり、あまつさえ、舌を飛び出させたりもする(th)。
だから下顎をしゃくらせると、微妙に歯と舌の距離が短くなり、英語的な発音がしやすくなるといふワケだ。

以上。
















by ichiro_ishikawa | 2017-05-30 20:42 | 日々の泡 | Comments(0)  

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