氷室京介、この10曲
氷室の凄さは、何をおいても、あの声だ。暴力的で官能的。ソウルフルでワイルドでヴァイオレントでセクシー。日本では矢沢永吉のドスとセクシャリティが近いように思えるが、よりストイックで繊細でスマートであるところが、やはり矢沢とは全く異なる。海外では、コステロに近いやもしれぬ。コステロとの違いは、ツラと腕力だろうか。コステロも或る意味、暴力的だが、コステロはインテリでケンカ屋という感じではない。そうした肉体性が声に及ぼす影響は濃いのである。氷室の腕っぷしの強さは、その声に如実に現われている。チョイ不良(ワル)などちゃんちゃらおかしい、ド不良ならではの破壊力に満ち満ちている。
パンク、エモコアでありがちなガナリ声とはほど遠く、ナルシスト系に多い醜悪な自己陶酔ハイトーンとは明らかに一線を画す。暴力的で破壊的だが繊細でストイック、繊細でストイックだが暴力的で破壊的。この相反する要素が混在しているところが、氷室の特筆すべきところだ。低音は金縛りにあってしまうほど恐ろしくセクシーで、「太い」ハイトーンは切なさを殺せない。
素晴らしいシンガーである。
というように、氷室はまず、声がものすげえのだが、今回のセレクトを終えて、メロディメイカーとしても、かなり秀逸だということに気づかされた。iTunes7にプレイリストを作って、ある程度厳選して「すげえ曲」をポンポンと放り込んでいったら、なんと40曲になってしまった。まあ20曲はあるかなという、当初の見通しは甘かった。
Memories of Blue、Mellow、Follow the Wind、Higher Selfからほとんど全曲入ってしまうことに気づき、慌てて、各アルバムから1〜2曲という原則、あくまで原則、を打ち立てた。
氷室は、ビート系のシングルは、そんなに良くない。氷室はアーバン・ソウル・シンガーなので、ビート系では魅力は半減してしまうのだ。じゃあ「BOφWYはどうなんだ」という。BOφWYはビート系バンドだが、布袋ビート、つまりファンキッシュなニューウェーヴ・ビートなので、それは氷室には出せないものだ。氷室がやると単なるジャストな8ビートになってしまうから、あまり面白くないのだった。
前述した通り、氷室はアーバン・ソウル・シンガーなので、バラッドを歌わせたら、まさに面目躍如たるものがあり、なんでも凄いし、それこそ、電話帳を読み上げるだけでも聴ける声だけに、どんな曲でも切り捨てがたいのだけれど、それでは埒があかないので、今回は、メロディ(歌メロ)の秀逸さにやや重きを置いてセレクトした。
16
STORMY NIGHT
included in the album Higher Self (1991)
氷室は、ソロになるに当たって、ポップフィールドにいながら、かつストイシズムを追求し、より内省的になっていく方向を選んだ。『Higher Self』は、ソロ3作目。ストイシズムは頂点を迎えた。
15
BLOW
included in the album SHAKE THE FAKE (1994)
珍しく矢沢的歌唱法をとったフォークブルース的な曲。こんな歌い方が出来るのは、モノホンのワルだけだ。
14
DEAR ALGERNON
released as the single &
included in the album Flowers For Algernon (1988)
「ひび割れた」というイントロ無しの歌出だしの曲。この「ひび割れた」の低音から、サビの「I Wanna Feel My Love」のハイトーンまで、24オクターブある。素晴らしいシンガーだ。ロックはうまさじゃない、ハートだという。俺はハートなんかなくてもうまけりゃいいと思う質、というか、ここまでうめえとハートなんてどうでもいいと思えてしまう。そこが凡百のロックシンガーと氷室が一線を画すところだ。
13
HEAT
released as the single &
included in the album I-DE-A (1997)
アップテンポのポップソング。メロディーメイカーとしての才能がグワッと発揮されている。
12
Monochrome Rainbow
included in the album Follow The Wind (2003)
ソロデビュー15年目、43歳にして、いまだ頂点を知らないということを知らしめたのがこの曲を収めた『Follow The Wind』で、同レベルの曲がズラリと並ぶ。サビの切なさが今、ジャストだったので今回はこの曲になった。
11
SQUALL
released as the single &
included in the album MISSING PIECE (1996)
「魂を抱いてくれ」「Stay」「Waltz」と立て続けにシングルをリリースしていた95〜96年にあって、最も良く出来た曲がこの「Squall」だ。キーはかなり高い。このようなハイトーンをニワトリにならずにワイルド&セクシーを保てるという氷室のシンガーとしての力量にはホント驚かされる。
ちょっと休憩・番外編
カバー曲ベスト5
5
SUFFRAGET CITY(デイヴィッド・ボウイ '72)
released as
the B-side of the single DEAR ALGERNON (1988)
アマチュア時代から氷室が愛してきたデイヴィッド・ボウイのこの曲は、ソロ初期のライヴでよく披露されていた。氷室の英語の発音は、外人より英語っぽく、かっけえ。
4
ACCIDENTS WILL HAPPEN
(エルヴィス・コステロ '80)
released as
the B-side of the single MISTY〜微妙に〜 (1989)
声質がやや近いコステロも、アマチュア時代からの氷室の憧れの人。コステロの曲をここまでセクシーに歌いこなせるのはやはりすげえ。
3
たどりついたらいつも雨ふり(ザ・モップス '72)
released as
the B-side of the single DEAR ALGERNON (1988)
吉田拓郎作詞作曲。氷室が拓郎を好んでいたことは有名だし、中学時代、NSPのコピーバンドをしていただけあり、根っこには日本のフォークがあるのは確かだ。1960年生まれだから、70年代が青春期で、折りしも、フォークブーム真っ只中という状況もあろう。氷室が作るメロディがどこかフォーキーな香りがするのはこの原体験があるからだ。
2
時間よ止まれ(矢沢永吉 '78)
from bootleg
闇市場で出回っているテープに収録。カラオケで熱唱する。矢沢の真似をややしているが、そもちょっと似ているので、オリジナルとも取れる。超低いキーが、恐ろしくかっこいい。間奏ではどうやら矢沢のアクションを真似ているようで、「エーちゃん、このようにやるんだよ、このように」とはしゃいでいる。途中、曲の展開を見失い間違えるも、「あ、わかった。俺プロだ」とすぐに回復。ちなみにイントロでは、「水割りをくださーいー」と当時流行っていた堀江淳の「メモリーグラス」を歌い始めるひとコマも。
1
クローズ・アップ(中山美穂 '85)
sung in TV 夜のヒットスタジオデラックス
as BOφWY (1986)
オープニングのメドレーで中山美穂のこの曲を歌って、氷室は中山にマイクを渡した。BEAT EMOTIONを引っ提げたツアーの真っ最中のTV出演で、声はややかれ気味の中、甘いポップソングを掠れたハイトーンでワンコーラス熱唱した。すげえセクシー。「美穂ちゃんのファンだそうで。どういうところが好きですか?」という芸能界的な質問には、「顔です」と即答。88年のレコード大賞での受賞コメントでも、「ファンのみんなとスタッフの力と、それからあとは俺の実力だと思います」と述べた。奥歯にモノの挟まったような建前だらけの無責任なTV界に対し、タイマンで、正面からつばを吐く氷室。かっけええ。しびれる。
10
D'ecadent
included in the album Memories of Blue (1993)
傑作『Memories Of Blue』の中のこの曲は、歌謡曲好きの俺の琴線にビンビン触れて来るメロディが至極秀逸なナンバー。
9
Lover's Day
included in the single JEALOUSYを眠らせて (1990) & others
氷室はシングルのB面がものすげえという伝説はここから始まった。クリスマスに聴きたい超ラブソング。
8
MISTY
released as the single &
included in the album NEO FASCIO (1989)
この曲はとてもマニアックで、キャッチーとはほど遠いのだが、なぜか心をグワッと掴んで離さない媚薬のような魔力があるナンバー。氷室の声をじっくりと堪能できる切ないミディアムバラッド。
7
So Far So Close
included in the album MELLOW (2000)
『Mellow』は氷室初のバラッドアルバムで(70%がバラッドという意味で)、ビート系よりもバラッドを聴きたい人には待ってました的な作品なのだが、もう本当にとんでもない大傑作だ。どれも外せないのだが、1アルバムにつき1曲という原則を貫いた結果、「ええい、ままよ」とこの曲を選んだ。アクースティック・ギターの伴奏で、「夜の深さに漂いながら」とボーカルが入って来た瞬間、クワッとなってしまい、エンディングまでずっとクワッとしっぱなしなのだった。
6
Memories Of Blue
included in the album Memories of Blue (1993)
『Memories Of Blue』は怪物アルバムでものすげえのだけれど、その中の最高傑作はやっぱりこのタイトルトラックか。淡い切なさというものがヒリヒリとオイルの匂いと共に漂っている。
5
TENDERLY
released as the b-side of the single SLEEPLESS NIGHT~眠れない夜のために~ (1999)
シングルのB面で、フォーク色の強いメロディが素晴らしくいい。
4
MIDNIGHT EVE
released as the b-side of the single 魂を抱いてくれ(1995) &
included in the album MISSING PIECE (1996)
この企画を始めようと思ったとき、1位はこの曲だろうと思っていた。そのぐらいすげえ曲だが、これもシングルのB面。アーバン・ソウルの最高傑作だ。
3
Urban Dance
released as the single (1992) &
included in the album Memories of Blue (1993)
ロキシー・ミュージックの最高傑作「Same Old Scene」を彷彿させる氷室極上のアーバンソウル。ドラムにアンディー・ニューマーク、ベースにトニー・レヴィンといった後期ロキシーのサウンドデザインを担ったミュージシャンを迎え、日本人には絶対出来ないと思われたロキシー・サウンドを歌うという偉業を成し遂げた。
2
Good Luck My Love
released as the single(1992) &
included in the album Memories of Blue (1993)
氷室は「わがままジュリエット」の頃から、この手の、「トニック・コードに帰結しない楽曲」、つまりある意味、歯切れの悪い、余韻を残しまくってフェードアウトしていく、という楽曲をよく作るのだが、その最高峰がこの曲。後ろ姿だけしか映らないPVも秀逸で、ミステリアスでワイルドでセンシティヴでヴァイオレントでソウルフルでセクシーな氷室が全部詰まっている。ああすげえな、この曲は。1位だ。
1
DON'T SAY GOOD BYE
released as the b-side of the single VIRGIN BEAT &
included in the album SHAKE THE FAKE (1994)
「さよならと言わないで」という邦題は、バンバンバザールの「さよならと言ってくれ」と対になるようだが、実は同じだ。切ないのに明るい、バラッドなのにテンポのいい、すげえグッドメロディのこの曲が今回のナンバーワン。
これらの例によってすげえとしか言っていないコメントは、もちろん曲を聴きながら書いているのだが、つまり、とんでもない声をずっと聴いているという事で、後頭部がずっとピキピキと痛く、終始クワッとなりっぱなしなのだから、文が拙いのはしょうがないし、いずれにせよ、音楽について言葉で何か言うというのは本当に痛々しい行為だな。
by ichiro_ishikawa | 2006-12-22 00:01 | 音楽 | Comments(1)