俺とディラン

他のすべてを忘れて、キーツやメルヴィルを読んだり、
ウッディ・ガスリーやロバート・ジョンソンを
聴いた方がいい。(ボブ・ディラン)

ボブ・ディランがやっとわかった。
ディランは天才詩人なのだった。

何を今更と訝る向きもあろうが、はたして本当に今更か。

まず天才というのは、詩人にかかる形容ではない。
詩人だが、詩才が特に凄いわけではない。
いや凄いは凄いが、モリッシーやマイケル・スタイプの方がよほど凄い。
つまり、天才で、詩人なのだ、ディランは。

ディランは詩に重きを置くミュージシャンではない。
ずば抜けて歌とギターがうまい詩人なのだ。
実は、歌わなくても、ギターが無くてもいい。本人にとっては。
瞬間的にキラッと輝くが、とりたててアレンジもフックも無い単調な音楽で、
これといった抑揚も無く、8番ぐらいまで歌うディラン。
それは詩こそがすべてだからだ。

天才は、歌とギターと作曲にある。
ディランはすべて直感で創造している。
知的なアーティストというのが、そも誤解であった。
インテリではない。むしろバカなのやもしれぬ。
あれら諸作はすべて思いつきなのだった。鼻歌がそのまま名曲になっちまうのだった。
コンセプトなどない。ジャケットなども適当だ。

そのようにディランを思うと、
すっとディランが己が脳髄だが心だかになじんで来るのが感じられた。

地味で朴訥としてシンプルで、きらびやかなメロディも何の抑揚もない音楽だのに、ぐわっとハートをわしづかみにするとてつもない旋律。何の変哲も無いただのストロークだのに、ざらざらと疾走していくギター、しゃがれた汚いダミ声なのに、きらきらと美しいボーカル。それは戦前の黒人ブルースマンの身も蓋もない直截性、アメリカン・ルーツ・ミュージックの生の肌触りを彷彿とさせるばかりではなく、今にも何処かに駆け出していきそうな性急さと、どこにも行けないという焦燥が混ぜこぜになった、これぞロックという輝きがあるのである。ビートルズやコステロのようなメロディー・メイカーとは確実に違う種類の、作曲家、ギタリスト、そしてシンガーとしての恐るべき才能に、ディランは溢れている。

というわけで、ディラン名曲名演、ベスト5。

13.
Desolation Row
Recorded Aug 2, 1965
from Highway 61 Revisited ; Released Aug 30, 1965

c0005419_216212.jpg『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』から始まるロック化3部作の第2弾『追憶のハイウェイ61』のラストを飾る名曲。10番まである大作だ。邦題は「廃墟の街」。ニョーヨークの街を走るタクシーの中で書いたという。ディランの詩、ボーカルとハーモニカ、どれもすさまじく、リリカル。さらに特筆すべきは、マイク・ブルームフィールドのギターだ。当時ポール・バタフィールド・ブルース・バンドの一員だったブルームフィールドは、このアルバムで大活躍を見せるが、ディランから誘われたツアーへの参加は固辞。「みんな大スターになるんだろうな。でも僕はただブルースをやりたいだけなんだよ……」と言い残して去ったという。ブルームフィールドについてはこのサイトに詳しい。


12.
Love Minus Zero/No Limit
Recorded Jan 14, 1965
from Bringing It All Back Home ; Released March 22, 1965

c0005419_2152255.jpgロック化3部作の第1弾『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』収録。これまで言わば「一元的な」歌を歌ってきたが、今回は「三次元的な」ものにしようと思い、象徴的な表現も多く使って多層的な歌を書いたとは、本人の弁。美しく切ない珠玉のラブ・ソングだ。



11.
Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again
Recorded Feb 16, 1966
from Blonde on Blonde ; Released May 16, 1966

c0005419_2141886.jpgロック化3部作の第3弾にして、ロック史上初の2枚組アルバムにして、名盤中の名盤と名高い『ブロンド・オン・ブロンド』収録。このジャケットのディランの髪形に誰もが憧れたが、日本人には無理だった。1-6-4-5のコード進行の中、1のCsus4、5のG 11thが効いたすげえナンバー。ひとつのパターンを繰り返すだけのギター、ボーカルがとんでもない。


10.
Mr. Tambourine Man
Recorded Jan 15, 1965
from Bringing It All Back Home ; Released March 22, 1965

c0005419_2152255.jpgバーズによるカバー・ヴァージョンの方が有名な傑作。天然のディランは、バーズのカバーを聴いて、「お、きゃつらもいい曲作るな」と言ったとか言わなかったとか。


9.
One of Us Must Know (Sooner or Later)
Recorded Jan 25, 1966
from Blonde on Blonde ; Released May 16, 1966

c0005419_2141886.jpgバックはザ・バンド(当時はホークス/ドラムは、ミッキー・ジョーンズ)。


8.
It's All Over Now, Baby Blue
Recorded Jan 15, 1965
from Bringing It All Back Home ; Released March 22, 1965

c0005419_2152255.jpgアクースティック・ギターとハーモニカによる弾き語りに、アクセントでさりげなく入るエレクトリック・ギターがいい。とてつもないハーモニカを聴かせるブートレグvol.4『ライブ・アット・ロイヤル・アルバートホール(Live 1966)』(実際はマンチェスターのフリー・トレード・ホールの公演)でのバージョンもいい。


7.
All Along the Watchtower...
Recorded Nov 6, 1967
from John Wesley Harding ; Released Dec 27, 1967

c0005419_216515.jpgジミ・ヘンドリックスによるカバー・ヴァージョンも有名な傑作。ジミヘンのカバーを聴いて、「お、奴もいい曲作るな」と言ったとか言わなかったとか。前述の「タンブリンマン」といい、いずれもカバーの方がいいのだが、とすると、ディランは名デモ・テープ家ともいえる。ザ・バンドとの共演アルバム『Before The Flood』でのバージョンは、ロビー・ロバートソンの疾駆ギター、リヴォン・ヘルムの踊るドラミングが素晴らしい。


6.
Blowin' In The Wind
Recorded: Jul 9, 1963
from The Freewheelin' Bob Dylan ; Released: May 27, 1963

c0005419_2155926.jpgシンプル・イズ・ベストの代表的名曲。これだけで一生食える。「答えは風の中」というサビのフレーズも、そんな大したフレーズではないが、ゴロがいいのが何より。「Yes'n〜」というのは、「そう、で」と訳すといい。前述したザ・バンドとの共演アルバム『Before The Flood』でのアップ・バージョンも秀逸。


5.
Subterranean Homesick Blues
Recorded Jan 14, 1965
from Bringing It All Back Home ; Released March 22, 1965

c0005419_2152255.jpgビデオクリップも秀逸な元祖ラップ。


4.
Hurricane
Recorded Oct 24, 1975
from Desire ; Released Jan 16, 1976

c0005419_2134752.jpgディラン一流のパンク・ロック。ニューヨーク・パンク、ピストルズが爆発する直前に、ローリング・サンダー・レビューと並行して、ディランはこのパンクを放っている。8分34秒、11連の詩からなる大作で、最初は、1975年11月にシングルのA面 、B面に分けてリリースされた。ディランの鬼気迫る叩きつけるようなボーカル、かき鳴らすギター、これまた攻撃的なスカーレット・リヴェラの飛び交うバイオリン。1966年6月17日に起こった殺人事件の容疑者として逮捕された、黒人プロボクサーのルービン・ハリケーン・カーターの冤罪を主張した歌だ。アコースティックギターのカッティングではじまり、リズムセクションが加わり、ジプシー・ヴァイオリンの哀調を帯びたメロディーが絡んでくるといよいよこれはただ事ではなくなる。


3.
Tangled Up In Blue
Recorded Dec 30, 1974
from Blood on the Tracks ; released Jan 20, 1975

c0005419_2145629.jpg邦題「ブルーにこんがらがって」は名訳。シンプルな力強さに満ちている。


2.
Like a Rolling Stone
Recorded Jun 16, 1965
from Highway 61 Revisited ; Released Aug 30, 1965

c0005419_216212.jpgアル・クーパーの偶然のオルガンが、何か素晴らしいことが起こるという胸騒ぎを掻き立てる。C-D-E-F-Gというだんだんと上がっていくコード展開も、高揚感を誘う。「Rollin' Stone」という言葉は、マディ・ウォーターズの曲が初出のようだが、それを拝借してバンド名に冠したストーンズ、そしてこのボブ・ディラン、さらにカウンター・カルチャー誌として出発したヤン・ウェナーの雑誌のタイトルとなり、もはやロックの代名詞となったが、この曲ではむしろ「How Does It Feel ?」の方が重要だ。マーティン・スコセッシは、この曲が爆発する瞬間をハイライトにした長尺ドキュメンタリー『ボブ・ディラン ノー・ディレクション・ホーム』を2005年に作った。


1.
I Want You
Recorded Mar 9, 1966
from Blonde on Blonde ; Released May 16, 1966

c0005419_2141886.jpg1-3-6-5-1の黄金のコード進行でギターリフが展開していくポップチューン。だがそんなコード進行を意に介さないボーカルライン。この組み合わせが単なるポップソングに括られない、ロックの輝きを放つ。「傷つけたりけなしたりすることでなく、勇気の出るようなことを言ってくれ」というディランらしく、不穏なボーカルながら音楽全体がキラキラしていて素晴らしい。

by ichiro_ishikawa | 2007-04-11 02:21 | 音楽 | Comments(0)  

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