春なのに、号泣

 小林秀雄と池田晶子の新刊を土日に読むつもりで買ったが、鞄の中から「おい、きさま、早く読め」とせっつかれた気がしたので、読みほした。

 小林秀雄は、その玉言が全集の中から年代順に抜粋されてまとめられていた。この抜粋という作業、本ブログでもたびたび行なっていて、その度に感じていたのだが、小林秀雄を抜粋しようとすると、どうしても1文や2文で足りず、段落丸ごと、いやその文章全体を抜粋せざるを得なくなる。もっと言えば、全ての文を抜粋ざるを得なくなる。そうなるともはや抜粋ではなく、全集全文書き取りとなる。
 本書でも、文壇デビュー作「様々なる意匠」など、いっそ全文載せちまえよと思うほど抜粋し過ぎで、逆に訳が分からなくなっている。
 小林秀雄の本はどのページを繰っても、金言に満ちているが、彼ほど金言集を編みづらい人は無い。全部金言というのも考えものだ。例えば、ビートルズの音楽はどれもものすげえ音に満ちているが、それを例えば珠玉のフレーズ毎に切って、1枚のCDに全100本詰め込んだとしても、何か違うだろう。1つ1つはもちろん光り輝いているが、とはいえ、何か違うだろう(ストーンズなら成立する)。本書では、まさにそういうことが起こってしまっている。というわけで、この本はこれから小林秀雄の本編に向うかもしれない人へのサンプル集、もしくは目次、みたいなものだ。これだけで完結するものでは全くない。とはいえ、ひとつひとつが、ものすごく、とんでもないことには変わりはない。本当にすげえ。

 池田晶子は、死の直前まで筆を執っていた「週刊新潮」での連載「人間自身」をまとめた完結編。と思っていたが、雑誌「BRUTUS」と「ランティエ。」に載ったものも含まれていて、それらは初見だった。死後、新たなものが読めるとは! と喜ぷ中、驚きの文章を発見した。
 表題「小林秀雄 様」。以前から彼女の著作中に小林秀雄はよく登場するし、「小林秀雄への手紙」というズバリの著作もあるし、そして「新・考えるヒント」を上梓したぐらい、池田晶子は小林秀雄だが、もう一作あったとは。ラブレターが。
「僭越ながら、私、貴方のお仕事を継ぐ唯一正当の嫡子と、自認しております。きっとお認めくださることと、これまた僭越にも自認しております」
「いつか、貴方を唸らせるような、凄い作品をものしてみせます」

 「ランティエ。」なる雑誌の今年の2月号に掲載されていた。これは、小林秀雄が文壇のやつらに言い放った「てめえらとは覚悟が違う」という言葉を受けての、同じ覚悟の違いを見せつけた所信表明にして、小林秀雄へ宛てた遺書ではないか! 
 要するに、我々に突きつけられた事実は、今、小林秀雄の仕事を継ぐ者はいない。そして、小林秀雄を唸らせるような凄い作品も、もう出ない、ということだ。と思うと、悲しみというか無念さが心に充満したが、池田晶子の全著作、これがすでに小林秀雄も唸るものだ。

 この新作は、晩年(と言えてしまうとは!)の著作群だからか分からぬが、眼光の鋭さはそのままに、何と言うか、肩の力が抜けた筆致で、小林秀雄の「考えるヒント」を彷彿とさせるものがある。個人的に気に入ってるものは、前述の「小林秀雄 様」と、以前も雑誌連載時に本ブログで書いたが、実父の死に際した「ご苦労さまでした」と、生前最後の著作と思われる「墓碑銘」。「ご苦労さまでした」は、嗚咽もしくは号泣してしまうから、間違っても電車の中などでは読んでいけない。

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by ichiro_ishikawa | 2007-04-20 03:05 | 文学 | Comments(2)  

Commented by タケチャンマン at 2007-04-20 09:04 x
小林秀雄→池田晶子→イチロック
Commented by qeb at 2007-04-22 17:17 x
私もセットで買ってきました。
それなりに大きい本屋では、池田晶子というコーナーが出来つつあるようですね。
善いことです。
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