子殺し

柳田國男(1875~1962)という人は民俗学の大家というと仰々しいが、日本の田舎に古くから伝わる話を集めて編んだ人で、それらの話が、戦前のブルーズやフォークミュージックを聴いている近年、実に心を揺さぶるので、載せる。
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柳田國男は『山の人生』という、山の人生を集めた本で、その序文に代えるとして、次のような話を紹介している。
炭焼きで生活する50ばかりの男がいた。女房はとうに死に、13の男の子と同じ歳のもらってきた女の子を山の炭焼き小屋で育てていた。世間はひどく不景気で、里に下りても炭は売れず、一合の米も手に入らなかった。子供たちはひもじがっている。その日も手ぶらで帰ってきて、飢え切っている子どもたちの顔を見るのが恐ろしい。で、小屋の奥にそっと入って、昼寝しちまう。
眼がさめると、小屋の口いっぱいに夕日が差していた。秋の末のことだという。二人の子どもは日当たりのところにしゃがんでしきりに何かしている。そばにいってみると、仕事に使う大きな斧を磨いていた。
「おとう。これでわしたちを殺してくれ」と言って、入り口の材木を枕にして、仰向けに寝たそうだ。
男はそれを見るとくらくらっ!として、前後の見境無く、二人の首を打ち落としてしまった。
自分は死ぬ事ができなくて、やがて捕らえられ、牢に入れられた。

この話を序文として載せた柳田國男の心を、小林秀雄は、講演で、以下のように語っている。

ちょうどその頃は、日本の文壇では、自然主義文学が盛んなときさ。どこかの女の子と恋愛して、逃げられて、女の子の残り香を布団に匂ったとか、そんな小説書いて、自然主義だと得意になっていた頃ですよ。いろんなつまらん恋愛、心理的な小説を幾つも幾つも書いて、「これが人生の真相だ」なんてえばっていた頃に、「なーにをしてるんだ諸君」。そう言いたかったんだな。僕はそう思うよ。
人生の真相だなんてえばっているものは、あんなものはみんな言葉じゃないか。よくあんなこせこせして小生意気なものを書いて人生の真相だなんて言っているが、どうして子供が死んだか。

悲惨な話ですけどねえ。だけどねえ、その子供ねえ、もっと違ったところから見るとねえ、こんな健全なことないですね。お父っつぁん可愛そうでたまんなかったんですよ、子供は。「俺たちが死ねばお父っつぁん少しは助かるだろう」と、そういう気持ちで一杯なんじゃないか。そういう精神の力で鉈(なた)研いだんでしょ? そういうものを見ますと、言葉というものにとらわれないよ。心理学というものにとらわれない、本当の人間の魂、そういう魂がどこかにいますよ。


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上の文は講演をそのまま起こしたもので、活字にするといささか読みにくい。講演CDを聴かれたし。またその講演は本人による加筆修正で原稿に直され、それは「考えるヒント3」に収録されている。

by ichiro_ishikawa | 2007-05-03 01:49 | 文学 | Comments(0)  

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