小林秀雄というラブソング(3) 親の恩

親の恩

 小林秀雄の現存する最古の文章は、小学校の作文で、当時からその文体は独特の輝きを放っている。

おやのおん   尋常二年男 小林秀雄 

 私のきものは、お母さんがこしらへてくださつたのです。学校へくるのは、お父さんやお母さんのかげ(ママ)です。うちでは、私はかはいがつてくださいます。このおんをわすれてはなりません。おんをかへすのには、お父さんやおかさんのいひつけをよく、きいておやにしんぱいをかけないやうにして、学校で はせんせいのおしへをまもるのです。それでおんはかいせる(ママ)のです。

「明治四十三年度、各学年綴方優作集」(白金尋常小学校)


なんと美しいことよ。
グルーヴィーで、愛に溢れ、これは、すでにスウィート・ソウル・ミュージックではないか。

「この恩を忘れてはなりません」の矛先は、自分なのか他者なのか。他人に言うのも自分に言うのも同じことだ。続く「〜のです」連打の、断定口調はどうだ。小2でこの確信はどうだ。
 他者への感謝、自分は他人によって生かされているという謙遜、そして直覚したところを、自己流に責任を持って信じるという覚悟が、すでに見える。
 文は人なり。人間の品格は、文にこそ最もよく現われる。

by ichiro_ishikawa | 2007-08-10 03:56 | 文学 | Comments(0)  

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