エッセイ「酒とオレ」



 ヨーロッパの映画にはよく食卓が出てくるが、あの食卓、すげえいい。ワインボトルやデキャンタが散乱し、色とりどりのオードブルが雑然と並べ置かれている。大抵パイみたいなものがあり、種々のパンがあり、ギャートルズ的なでかい肉がデンと置かれている。人々は、パンナイフでバスッバスッとバゲッツを裂きながら、他愛のない激論を交わしたり、歌ったり、バンジョーを奏でたり、踊ったりしている…。
 ああいうのを観た後、俺は決まって酒を飲みたくなる。おお、酒よ、酒宴よ!

 昔はビールぐらいならジョッキ2杯は飲めたが、あれは常時飲んでねえとどうも弱くなるらしい。最近は、ワインをグラス一杯空けると、決まって後頭部やや内側からてっぺんにかけての部位がジンジン痛み出し、胸が苦しくなり、ゲボが出そうになる。俺は精神的な苦しみにはめっぽう強いが、物理的な苦しみには36.5の熱で稼動不可能になるほどすげえ弱いため、もがき苦しむことになる。そんなとき、「一生、酒なんて飲んでやらねえ」と思うのだった。
 だから、普段、俺は酒を飲まない。
 
 とはいえ、リリー・フランキーをして「シェイカー振ってそうだよね」と言わしめるだけあり、俺は、傍目には「ブランデー」を飲みそうな酒飲みの面(つら)らしいのだ、どうやら。そうした「己が意に反したパブリック・イメージ」というのを、俺は否定するどころか、大事にしているし、裏切りたくないので、「酒は強い。大好きだ」ということにしているが、実際の現場ではウーロン茶しか飲まない。となると当然周囲には不審がられ、大抵、「え、飲めないの?」的な応答が始まることになる。
 「飲めないんじゃない、飲まないんだ」と吐き捨てると、当然、「なんで?」とくる。まあ、くるだろう。こうした問答が面倒くさい。というか、うまくない。これまで「茶もこの上なく好きだから」といった無難なものから、「氷室も長渕も福島君もいいシンガーはみんな下戸だ」といったポップなフレーズまで、いろいろな文言を用意してきたけれど、どうも歯切れが悪いというか、決定的な文句をずっと見出せずにいた。
 そんなある日の寝しな、ふと、これ以上無い、いい文言が降りてきた。

「車なんで」

 この、奇を衒わない、地味ながらも切れ味鋭いフレーズを発見したときは小躍りしたい気分だった。血液型を聞かれたときの答えとして「Dm(ディー・マイナー)」を見出したときと同レベルのしてやったり感だ(この場合、相手によっては「あ、間違えた、Csus4(シー・サス・フォー)だった」と畳み掛けるのも有効だ)。

 当然、その後の流れも必然的に、教科書的ではあるが次のように決まってくる。
「へぇ、何乗ってんの?」
「黒のコルベッツ。昔は赤い魂ってやつだった」
「へぇ車好きなんだ」
「特にシャシーには目がない、ホッケンハイムにも行った」
「どの辺走るの?」
「深夜よく第三京浜をぐるぐる流してる」
「へぇ、今度乗せてよ」
「ワイノット? ただしデス・プルーフ仕様だがな!」

FIN



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by ichiro_ishikawa | 2007-12-05 02:45 | 日々の泡 | Comments(5)  

Commented by Memory Motel at 2007-12-06 01:13 x
タイトルの意外性に思わず引き込まれ、オチで椅子からひっくり返りそうになった。コルベットもお似合いだけど頭痛に耐えながらJDとか啜ってて欲しいわ。
Commented by ichiro_ishikawa at 2007-12-06 02:51
あの頭痛、物理的にはキリスト磔刑時の痛みに近いものがあるとだけ
Commented by ヴァン at 2007-12-07 00:26 x
いやいや、飲まないんじゃなくて、飲めないんでしょ!?
誰もつっ込まないといよいよタチが悪い。
Commented by ichiro_ishikawa at 2007-12-07 01:13
いや、車なんで
Commented by ヴァン at 2007-12-08 01:20 x
ギャフン!
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