ヴァン・モリスン&スティーヴ・ウィンウッド
エルヴィス・プレスリーやジョン・レノン、ミック・ジャガーの例を出すまでもなく、ロックはまさしく黒人音楽から生まれ出たのであるが、黒人のようにはどうしてもなれないという、その葛藤がロックの原動力でもあった。ビートルズやローリング・ストーンズ、キンクス、フーあたりから、70年代のデイヴィッド・ボウイやエルヴィス・コステロ、ポール・ウェラーらのポップネスは、強力な黒人愛の裏返しでもある黒汁コンプレックスから来るものでもある。
一方、黒人コンプレックスを抱かずに、ただ自身のブラック気質と黒人愛にこそ忠実であったミュージシャンは、前述のミュージシャンほどのポピュラーな人気を獲得はし得ないが、その代わりに、より黒人寄りなロック・ファンには強く歓迎されてきた。地味に良作を生み続けている彼等はブルー・アイド・ソウルと呼ばれ、独自の道を歩んでいるが、その代表格がヴァン・モリソンとスティーヴ・ウィンウッドである。
来日していない最後の大物、ヴァン・モリスン(1945年、北アイルランド出身)。スペンサー・デイヴィス・グループ~トラフィック~ブラインド・フェイス~ソロと、華々しい職歴を誇るスティーヴ・ウィンウッド(1948年、英・バーミンガム出身)。エリック・バードン(アニマルズ~ウォー)、スティーヴ・マリオット(スモール・フェイセズ~ハンブル・パイ)と並ぶいわゆるブルーアイド・ソウル・ミュージシャンの重鎮ふたりが揃って新作をリリースする。
何を放たれても、買って損はないことが保障されている彼らではあるが、ふたりとも天命はとうに知り得た、そして、耳順がったいま、どう出てくるかは、非常に興味があるところだ。とりあえず、ふたりの偉業を振り返らん。
1. Astral Weeks (1968)
「ロックンロールから抜け出したかった」と本人が語る作品で、リリース当時は商業的に大失敗だったらしいが、今は名盤中の名盤として誰もが認める大アルバム。ジャズ的アプローチやフォークのニュアンスも濃厚で黒人音楽をオリジナルに昇華させた。
2. The Story of Them Featuring Van Morrison
ビートの利いたパンクR&B、ゼムの、ヴァン・モリスン在籍時1964-66年に発表されたほとんどすべての曲、全49曲を網羅した2枚組コンピレーション。パティ・スミスなど数々の大物もカバーしている「Gloria」、ベックもサンプリングしている「It's All Over Now Baby Blue」(Bob Dylanのカバー)、「Out of Sight」、「I Can Only Give You Enything」ほか、気の利いた名曲がズラリ。
3. It's Too Late to Stop Now (1974)
1973年夏の米英ツアーを収録した、ソロ初期の集大成的2枚組ライヴ盤。ホーン、ストリングスを導入した11人編成の「カレドニア・オーケストラ」がバックを務める。ゼム時代からの代表曲に加え、R&B、ブルースの名曲も披露。
4. Tupelo Honey (1971)
大名盤。アイリッシュ・ソウル大爆発。
5. Into The Music (1979)
アイリッシュ・フォーク/カントリー調あり、ホーン、ストリングス等が利いたド・ソウルあり、名曲ぞろいの名作。
6. Irish Heartbeat (1988)
アイルランドの重鎮トラッドバンド、チーフタンズと組んだアイリッシュ・トラッド作。ソウルなボーカルでのトラッドがカッコイイ。モリスンは、ドラムとギターも披露。
7. Avalon Sunset (1989)
神をみてしまった人のソウル・ソング集。
8. Hymns To The Silence (1991)
ジョージィ・フェームのオルガンが響き渡るアメリカン・ルーツ・ソウル。
9. Blowin' Your Mind! (1967)
「Brown Eyed Girl」「T.B.Sheets」「Spanish Rose」「Midnight Special」「He Ain't Give You None」と名曲満載のファースト・ソロ。この時期はどうしてもみんなサイケなジャケになるのな。
10. Veedon Fleece (1974)
愛妻ジャネット・プラネットと破局した傷心のモリソンが故郷ベルファストへ戻って製作した繊細なアルバム。この後、重度の麻薬中毒に。
11. Saint Dominic's Preview (1972)
コステロもカバーした「ジャッキー・ウィルソン・セッド」、ジャズ「アイ・ウィル・ビー・ゼア 」など名曲ぞろい。ソウルフルなボーカルを存分に堪能できる。
12. Moondance (1970)
ホーン・セクションを導入しR&B的なグルーヴをよりフィーチャーしたPOP作。
1. Mr. Fantasy (1967)
スティーヴ・ウィンウッド、ジム・キャパルディ、クリス・ウッド、デイヴ・メイスンの4人が結成したトラフィックの1st。何と言っても、ウィンウッドのソウルフルなヴォーカルがいい。時代の趨勢であったサイケデリックの調味を帯びているが、ウィンウッド自身も言っているように、「R&Bやブルーズ、ジャズ、フォーク、さらにはクラシックなど、あらゆる要素をブレンドした音楽」となっいる。
2. Traffic (1968)
ウィンウッドの黒くソウルフルなヴォーカルが素晴らしいが、ギターのデイヴ・メイスンのカントリー風の作品もよい。
3. The Best Of Spencer Davis Group
スペンサー・デイヴィスがギターとヴォーカル、スティーヴ・ウィンウッドがリードヴォーカルとリードギター、キーボードとハーモニカ、そしてスティーヴの実兄マフ・ウィンウッドがベース、ピート・ヨークがドラムスの4人バンドのベスト。R&B色の強いサウンド、スティーヴの若くソウルなボーカルがいい。
4. Arc Of A Diver (1981)
ソロ2作目にして、最高傑作。
5. Back In The High Life (1986)
ソロ4作目。ジョー・ウォルシュ、チャカ・カーン、ナイル・ロジャース、ジェイムズ・イングラム、そしてジェイムズ・テイラーという豪華ゲストが参加したポップなAOR。大ヒット。
6. Steve Winwood (1977)
ソロデビュー作。アンディ・ニューマークとウィリー・ウィークスという強力なリズムセクションがいい。
7. Blind Faith (1969)
ブラインド・フェイスは、スティーヴ・ウィンウッドと、当時クリームのエリック・クラプトンとジンジャー・ベイカー、そしてファミリーのリック・グレッチの4人によるユニットで、その最初で最後のアルバム。全曲ボーカルはスティーヴ。「メンバーにスティーヴがいるのなら、リーダーは彼で僕は従うだけ」というのがクラプトンのスタンス。
8. Roll With It (1988)
ソロ5作目。ジャケットは完全にアメリカ市場を意識したものだが、作風は相変わらずいい。
by ichiro_ishikawa | 2008-04-10 03:39 | 音楽 | Comments(2)