2017年 05月 11日 ( 1 )

 

氷室×布袋の化学反応の代表曲は「Fantastic Story」


BOØWYの凄さは、布袋のポップを氷室があの声で歌ふといふことと、氷室の曲を布袋がアレンジするといふこと、にある。またそれがわづか6年間の出来事であり、爾後そして今後、未来永劫あり得ないといふところに価値が生まれてもゐる。

前者については布袋のソロ曲をもし氷室が歌つたら…といふ想像で容易に得心できるところであらう。
ここでは後者、氷室の曲を布袋がアレンジするといふこと、について少し考へてみる。

まづ、データとしてアルバムごとの氷室楽曲を一覧してみよう。

『Moral』(1982)
16、School Out、Give it to me、Elite、Rats、Moral、Out!!、Dakara

『Instant Love』(1984)
Funny Boy、Oh! My Jully Part 2、Symphonic

『BOØWY』(1985)
黒のラプソディー、唇にジェラシー、CHU-RU-LU、ハイウエイに乗る前に、Cloudy Heart

『Just A Hero』(1986)
わがままジュリエット、ミス・ミステリー・レディ (Visual Vision)

『Beat Emotion』(1986)
Noise Limitter、Don't Ask Me、Sensitive Love

『PSYCHOPATH』(1987)
PSYCHOPATH、Celluloid Doll、Fantastic Story

かうしてみるとBOØWYの中でも渋い曲がズラリと並んでゐることがわかる。噛めば噛むほど味の出る類である。ライブやベスト盤の定番曲は少ない。「Give it to me」、「ハイウエイに乗る前に」、「Cloudy Heart」、「わがままジュリエット」の4曲だけだ。総数からするとかなり低い率であるが、人気1、2を常に争う「Cloudy Heart」、「わがままジュリエット」という2曲のバラッドが氷室楽曲であることから、BOØWYの楽曲面への貢献度といふ点でも氷室の存在感は大きく、これが、氷室が単なる歌い屋に収まらない点で、のちのソロの充実にもつながる。

ざつくりとした特徴を言へば、前中期はマイナー系フォーク色が強く、後期はサイコパセティックでセンシティブである。

かうした氷室楽曲が佳曲揃いであるのは、布袋のギターフレイズ、およびアレンジが相当効いてのことではないか、といふのが本稿の骨子である。

布袋のアレンジ具合といふのは、闇流出してゐるデモテープと実際のアルバム収録曲を比べてみるのもいいのだが、それよりも氷室のソロの曲との比較がよいと思ふ。
ここでは、特に最終アルバム『PSYCHOPATH』に注目したい。『PSYCHOPATH』のB面の後半に集中して氷室楽曲の3曲は配置されてゐる。後期ビートルズのやうに、布袋と氷室がくつきり分かれてゐて、解散の予兆がプンプンしてもゐることは興味深い。

『PSYCHOPATH』は1987年秋のリリースで、氷室のソロ第一作『Flowers For Algernon』は翌1988年秋に早速放たれた。つまり両作は、ほぼ同時期の作曲といつてよい。

実際『PSYCHOPATH』後半の氷室楽曲は『Flowers For Algernon』の世界である。『Flowers For Algernon』に入つてゐても遜色ない。しかし決定的に違ふ点がアレンジとギターのフレイズである。

氷室はBOØWYの後半、シーレやクリムトといつたウィーン世紀末画家やヨーロッパ系アートフィルム、そしてアートディレクターの永石勝氏からもらつたダニエル・キイスの小説『Flowers For Algernon』といつた作品、作者を通し、人間の狂気や精神世界への深い傾倒を見せてゐて、『PSYCHOPATH』後半の氷室楽曲からはさうしたセンシティブな面がうかがへる。

そしてBOØWY最後の氷室楽曲「Fantastic Story」である。これは『Flowers For Algernon』でみられる氷室節全開なのだが、布袋のギター、アレンジがBOØWYの全楽曲のなかでも白眉なのであつた。イントロ、歌のバッキング、間奏を注意深く聴きたい。氷室の地味で暗い世界をBOØWYとして昇華させる時に布袋が全力で振り絞ったのが、この「Fantastic Story」のギターフレイズとアレンジである(松井恒松のベースフレイズも素晴らしい)。
この布袋アレンジが、「Fantastic Story」を、『Flowers For Algernon』の世界でありながら完全にBOØWY楽曲たらしめてゐるのである。つまりは、氷室の神経症的なセンシティビティに触発された、繊細で屈折したポップ感である。

このやうな前へ前へ出る才能と才能の化学反応がバンドの魅力で、それが最大の形で発揮されたのがBOØWYであつた。
100%布袋を聴きたければ布袋ソロ、100%氷室を聴きたければ氷室ソロを聴くことで存分に純度100%のそれぞれを堪能できる。
氷室と布袋といふ今となつては還らない奇跡の一瞬が捉えられたBOØWYを聴きたければBOØWYを聴けばよい。当たり前のことだが。


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by ichiro_ishikawa | 2017-05-11 20:04 | 音楽 | Comments(0)