抄録「写生に就いて」


 実相に観入しておのずから感ずる衝迫、すなわちうたごごろを歌い上げることが、写生であり、短歌の根本である。ひとつの方法や主義というものではない。いわば芸術全般の根本である。あまりにも簡明で物足りなくとも、真相とはこういう当たり前の事、常識なのである。ただこの当たり前の事を実行する人は少ない。この実相への観入を緩めまいと努める事は大変難しいが、それが全てある。実相実相へと歩兵のようにひたすら歩むだけだ。観入の実行を突き詰めて行けば、感動は自ずから流露する。

 まるで小林秀雄の言葉のようだが、「斎藤茂吉歌論集」の要約である。全編に渡ってただそれだけを説いている。その歌への覚悟は痛切極まりない。

by ichiro_ishikawa | 2010-02-14 22:20 | 文学 | Comments(0)  

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