クイズ「古典とは」


 古典という言葉があるが、歴史の秘密が、僕等の生活体験の直中にあるように、古典が古典である秘密は、僕等の日常の文学観賞という行為のうちにある。古典の成立条件を、当時の歴史環境のうちにどんなに精密に求め得たところが、僕がその作品を古典と呼ぶ所以のものを、説明し得ないであろう。何故かというと、古典とは、僕等にとって嘗てあった作品ではない、僕等にある規範的な性質を提供している現に目の前にある作品である。古典は嘗てあったがままの姿で生き長らえるのではない。日に新たな完璧性を現ずるのである。嘗てあったがままの完璧性が、世の転変をよそに獨り永遠なのではない。新しく生まれ変わるのである。永年の風波に堪へる堅牢な物体ではなく、汲み蓋す事の出来ぬ泉だ。僕等はまさに現在の要求に従って過去の作品から汲むのであって、過去の要求に過去の作品が如何に応じたかを理解するのではない。現在の要求に従い、汲んで汲み盡せぬところに古典たらしめる絶対的な性質があるのだ。(小林秀雄)

by ichiro_ishikawa | 2010-03-02 00:25 | 文学 | Comments(0)  

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