抜き書き「経験」


 俺のして来た経験の語り難い部分だけが、今の俺の肉体の何処かで生きている。
 (「Xへの手紙」小林秀雄)

 とはいえ、こういうきまぐれな抜き書きは無駄だ。いや実は、気まぐれでないと抜き書きなどという愚行は出来ない。小林秀雄ほど抜き書きが意味をなさない文士はいない。無駄な言葉が一語もない事にまず驚く。しかも、それらの組み合わせが完璧で、句読点一つ動かすことができない。これはすなわち文章が美そのもので、要するに、詩なのだ。

by ichiro_ishikawa | 2010-03-08 00:07 | 文学 | Comments(0)  

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