エセー「作ると売る」


 多くの編集者は、本が売れる事を重視しています。本も商品として流通する以上、それは当然のことです。しかし、編集者をはじめ本を作り出すものにとって、本というメディアで送り出す作品こそ大切です。自分が、これだと思う作品を世に問うために本を刊行し、持続する才覚こそ重要です。本は商品であると同時に志を盛る器でもあるのですから。それが出版という本来の行為だと思うのです。
 (『新・装幀談義』 菊地信義)

 本好きは、紙の手触り、めくる感触、インクの盛り、意匠、重さ、形、大きさなど、そうした物質としての本、本の物質性にも、この上なく惹かれるものだ。それは当然、内容と密接にリンクする。どちらのクオリティが欠けても価値が薄れる。肉体と精神のようだ。つまり、微妙で精緻なものだ。
 
 文芸出版は、ある種の映画や音楽や美術といったポップアートに近く、商売だけど商売じゃない。文化だけど商品、という難しいしろものだ。ただ、いずれにせよ、売るありきで、作品を作るのは本末転倒、という世界にある。いいものを作るという志ありき。いいからこそ売るという使命も帯びてくるというもの。その順序をきちんと意識したい。誤解を恐れず、極論を言えば、売ることを考えても売れない。良いものを作る、ということしかできない。良いものを作ると、行っても1000人ぐらいにしか響かないので、出版は、1,500円1,000部が損益分岐点になるような1~3人の小さい会社でやるのが理想だ。その1~3人の年収はそれぞれ150万ぐらいか。大会社には向かない商売だ。資本は言わずもがな、人だ。

by ichiro_ishikawa | 2010-04-12 23:19 | 文学 | Comments(0)  

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