ローリングサンダーレヴュー「『SIDE B』SIDE A」


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最初に言っておくと、このアルバムはアナログ盤で聴くとそのすげさがグンバツに上がる。おそらく20年後にこの限定アナログ盤は10万で取り引きされる事になるから、将来なんかあった時のために10枚持っておけば100万になるっていう寸法だ(経済通)。

Aー1 「好事魔」
 アルバムの1曲目という場所は、ジャケットと共に、その作品のイメージをバシッと決めてしまう、極めて重要なポジションであることは言わずもがなだが、『リサイクル』の「世紀の楽団」、『できました』の「こんにちは」、『4』の「Friday Night エビフライ」、『スゲバンバ』の「JUST MOMENT PLEASE 」、『ジェントルマン』の「ロックンロール」、『十』の「明るい表通りで」、とバンバンバザールは、そのポジショニングにおいてことごとく成功を収めてきた。これはつかみの難しさを体で熟知している百戦錬磨のライブ・バンドならではでもあるし、曲作りは無論、企画宣伝業務から野外ライブで使う鍋の買い出しまで、バンバンバザール運営のための会社経営的事務処理すべてをバンド自らがこなすDIYな戦略家気質も一役買っているが、何よりも、古今東西数多の名盤を聴き倒してきたプロ・リスナーとしての嗅覚こそが、なせるワザであろう。
 「根が明るいもんで、これまでマイナーキーの曲を作ったことがない」と、いつか福島康之は言っていたが、パーッと幕が開いたワクワク、ドキドキの度合いがいつにもましてものすごいことになっているのが、このオープニング・トラックだ。
 「好事魔」。このトランペットのイントロ! その後ろでドン、ドン、シャカシャカなっているドラム! それに次いで流れてくるギター! そしてピアノ! ドラム with ペットの間の手! とソロ回し的フィーチャリング各楽器が転がりまくったあと、満を持して入る歌が、「好事魔、好事魔、好事魔…」。最高だ。この瞬間、このアルバムが傑作であることが既に保証されてしまう。
 「だから心配しなくていいぜ、こんな最低な夜にゃよ」。「好事」でないから、「魔」が「差すはずがないぜ」。とてつもなく、かっこいいフレーズ。「夜にゃよ」が福島節。おお、好事魔…好事魔…。ここ数ヶ月耳にこびりついて、離れない。挨拶代わりに「おお、好事魔」と言う小学生が増殖中というのもうなずける。クラスの小島は、しっかり「俺のテーマ」に認定してしまってはばからない。
 歌はこの短いワン・パラグラフでおしまい、ビシッとワンレーズのみ、というのがまたかっこ良く、アウトロはペット、そしてドラム・フィーチャーで終わる。音楽が全世界を包み込む、とんでもないアルバムの始まり、ってわけだ。

Aー2「情熱のありか」
 そんな小粋なオープニングに続いて、いきなりの普遍の名曲である。2曲目にこの手の名曲を配置するのもバンバンの手だ。『4』の「夏だったのかなぁ」、『スゲバンバ』の「さよならと言ってくれ」、然り。ピアノのイントロがいい。こういう良質のポップソングがかけるところが、数多のジャグバンド、ブルーズバンド、ジャズバンドと一線を画す。
 とまれ、この1、2曲目のワン・ツーで、もう「Rolling Stone」誌の「Album of the year」が確定した。

Aー3「フジヤマ」
 と思ったら、それよりすげえ曲が次々と出てくることになろうとは誰が思いますか!? これはPVも出来ている旅バンドならではの超秀逸な叙景/抒情歌。激・名曲。気張らない牧歌的なリラックスムードで進展する中、1番のブリッジ「浪裏には船が揺れて」で、失禁は免れない。異様な緊張感から変な汗が出てくる。このゆとりある雰囲気の中、哀しみが……。これはおそらく無常観、ってやつか。極めつけは、2番のサビ「僕の心はどこにあるの」の、歌詞カードにはないケツの「の」。海賊版『カバーデイル・デヴィッド』の最後に収録されているアクースティック・バージョンでも、きっちり「の」が入っているところをみると、意図的だ。ちなみにそのアクースティック・バージョン、イントロの、おそらく福島康之によるアルペジオが、ものすげえヤバい。

A−4「快速エアポート」
 まさか、である。すわ、このレコードは、曲を追えば追うほど、よりすげえ曲が出てくるっていうのか!? A−4という、野球で言う7番ぐらいの比較的地味な位置に配されたこの曲が、何を隠そう今作ナンバーワンだ。イントロのギター、低音の歌い出しがヤバすぎる。「窓の水滴が君の頬を流れていたんだ」のブリッジ。そして、「エアポート 快速でお願い」。かなり地味な曲とも言えようが、既に200回は聴いているというのに一向に飽きることない、「最高のB面感」が、ここにはある。この曲によって、「Rolling Stone」誌の特集「The All Time Best Album」で、ビートルズやストーンズやディランやレイ・チャールズと肩を並べることになった。

A−5「ブルーシャドウ」
 あまり名曲を連発してしまってはベスト盤になってしまうので、ここで少し緩急をつけてきた。とはいえ曲のクオリティは衰えない。非常にムーディーな佳曲だ。森と泉にかこまれたジャッキー吉川とブルー・コメッツ「ブルー・シャトウ 」を意識しつつ、「A Whiter Shade of Pale」の邦題「青い影」を逆英訳した秀逸なタイトル。「アルテミスの馬車が 横切る交差点」、「あの角を曲がると もうすぐ見えてくる 君の寝息も浮かぶ灯り 我が家」といった歌詞のすげさ。「番犬のいびきも 聞こえそうな夜です」の比喩、「月の光」と「月に雁」のふざけたライミング。素晴らしい…。

A−6「奥様 どうぞご勝手に」
 『十』の「浮かれたオートモービル」で開発された、黒川修のメタボ・セクシャルなボーカルをフィーチャーしたアクセント曲。「と〜き」「か〜い」「けれど〜」という文字では全く伝えようがない、黒川修の天才的節回しがものすげえ。。白眉は2番の出だし「っどこかはぁあ!」だ。
 それにしても、浮き出てしまうのが、黒川修の裏でにやけながら糸を引いているプロデューサー福島康之である。「浮かれたオートモービル」もそうだが、完璧な歌詞のフレーズ、構成、物語、オチ……完璧なプロデュース。「信じ難いね」「つがいになった」という表現センス、「恋はアモーレ 食事はマンジャーレ 歌はカンターレ」、そして「鳴らせファンファーレ」。プロのワザだ……。「奥様 どうぞご勝手に」という、男尊女卑的な思想を宿しつつの紳士的、謙譲的な別れ際のカッコ良さも、福島節といえる。
 そんなこんなで、「あー笑った…」と言って、レコードをひっくり返すと……。
 驚くべき、信じられないことが、まさか、起こるのであった……!!

 to be continued......

by ichiro_ishikawa | 2010-09-14 02:13 | 音楽 | Comments(0)  

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