池田晶子『残酷人生論』、唐突に復刊
『残酷人生論』は、全作が最高傑作の池田晶子の著作の中でも俺が最も気に入っている作品で、初めて池田晶子と出会ったのが、何を隠そうこの『残酷人生論』だったということを知っておくのはよい事だ。
俺が、はじめて池田晶子に出くわしたのは、26歳の春であった。その時、俺は、四谷をぶらぶら歩いていた、と書いてもよい。向こうからやって来た見知らぬ女が、いきなり俺を叩きのめしたのである。俺には、何の準備もなかった。ある本屋の店頭で、偶然見つけた情報センター出版局の「残酷人生論」の四六判に、どんなに烈しい爆薬が仕掛けられていたか、俺は夢にも考えていなかった。しかも、この爆弾の発火装置は、俺の覚束ない哲学の力なぞ殆ど問題ではないくらい敏感に出来ていた。四六判は見事に炸裂し、俺は、数年の間、池田晶子という事件の渦中にあった。それは確かに事件であったようにも思われる。文学とは他人にとって何であれ、少なくとも、自分にとっては、或る思想、或る観念、いや一つの言葉さえ現実の事件である。と、はじめて教えてくれたのは、池田晶子だったように思われる。
by ichiro_ishikawa | 2010-12-29 22:09 | 文学 | Comments(0)