ジャズ雑感

 ジャズという特異な音楽ジャンルがある。例えばロックだったら、ポップス、ブルース、フォーク、カントリーなどとの区別は容易じゃない。というか、それらのコンプレックス=複合体がそもロックなのだから、ロックという形態の幅はかなり広い。エレクトロニカだってテクノだって、ヒップホップだって、ソウルだってロックっちゃあロックだ。
 特異というのは、ただ唯一ロックじゃないのがジャズ、という意味でだ。
 ジャズとロックはポピュラー音楽の中の両横綱である。ロックとジャズは、その音楽的形式、志向において、基本的に真逆を向いている。ロックは、作り込まれた作品で、ライブなどではそのオリジナルの複製、再現が求められるのに対し、ジャズの場合は、その場その場でいかに「くずすか」が試される。ロックは本質的にポップであることを求めるが、ジャズはいかにポップから遠く離れるかが問題だ。例えばソニック・ユースのようにどちらにもいかない、そう単純に割り切れないミュージシァンも多いけれど、まあ基本的にそうであろう。だから、リスナーはその嗜好においてジャズとロックでは、きっぱりと別れる。両方好きだという輩も多いだろうが、いざ聴くという段になると心のスウィッチを意識的にせよ無意識にせよ、切り替えていることだろう。

 有名なビ・バップの誕生物語がある。生活のために大衆向けのポップスを演奏していたチャーリー・パーカー(as)やディジー・ガレスピー(tp)が、そうした音楽にもの足りず、ライヴがはねた後に、自分達のやりたいように、また演奏の腕をミュージシァン同士で競うべく夜中延々とセッションを続けたという。それがジャズを進化させた。そういうわけで、基本的にジャズは、己がための演奏であり、他の演奏者との競い合いであり、結果、ポップに背を向けて歩むことになる。ジャズは絶えず聞き手を裏切る方向に進み、表現力は高い演奏力を必然的に要求する。結果、大衆はジャズから遠ざかり、たいていのミュージシァンは、表現力さえあれば技術をさほど要しない手軽なロックを目指す。

 最近、ジャズを好んで聴く。昔は、ただその雰囲気が好きで、浴びるようにポップスを聴いた後、そのあまりのポップネスに飽きると、たまにマイルズ・デイヴィスのレコードをターンテーブルに乗せたりする程度だった。それが最近は、ジャズがちょっとしたヘヴィ・ローテションだ。i−podの手軽さのせいもあろう。
 ジャズ、俺風聴きどころは2つ。
●ミュージシァンのかけあいのスリル
●ポップじゃないメロディのスリル
●その場でどうアドリブしていくかのスリル
●各々の音色、全体のアンサンブルのスリル
(ただし、音楽的な細かいところは全然わかりません)

 要はすげえスリリングなところだ。だから、ジャズでもラウンジ的、BGM的なものは聴けない。ピリピリとした緊張感がなければ聴けない。
 というわけで、いいジャズメン、ベスト5。
(ソウル・ジャズ、ファンキー・ジャズ、エレクトリック・マイルス、ヒップホップ・マイルスなどは、ロックの部類だと感じるので割愛)

バド・パウエル(p)
オスカー・ピーターソン(p)
セロニアス・モンク(p)
チャーリー・パーカー(as)
ジョン・コルトレーン(ts,ss)
ディジー・ガレスピー(tp)
チャールズ・ミンガス(b,cond)

 スリルというとロックの専売特許のようだが、そうではない。ロックとジャズは真逆と言ったが、それは音楽的様式に対してであって、スピリチュアルな意味では、ほぼ同じことを目指している。あるスリルを指して、ある人はジャズというし、ある人はロックと呼ぶ。また、孤高たらんとする意志をジャズといってもロックといっても同じことだ。そうした「精神のあり方」にまでジャンル名が及んでいるということも、ロックとジャズが両横綱たる所以である。

ジャズ雑感_c0005419_1936296.jpg
今、聴きたい観たいジャズ『真夏の夜のジャズ』DVD
(1958年ニューポート・ジャズ・フェスティバルの模様)

by ichiro_ishikawa | 2005-07-12 19:38 | 音楽 | Comments(1)  

Commented by BECK at 2005-07-15 21:44 x
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