ルミリーの世界考察

ゲスの極み乙女。「私以外私じやないの」(2016年)のカップリング曲「ルミリー」が実に素晴らしく、すでに何百回と聴いてゐるが、まだ聴いてゐたいと思ふ。

メロディが抜群に美しく、言葉の続け柄、ビートへの乗せ方、調べがカッコよく、滑らかで、頗る気持ちがよい。
そして、歌はれる失意と哀しみがその音楽と一体となつててゐて、ひどく胸が痛み、締めつけられる。
これは、ゲスの典型的な魅力でもあるが、「ルミリー」において、特に際立つてゐる。

ので、その歌詞を丁寧に紐解いてみる。

場面は、小さな子と一緒にゐる「僕」。ゐなくなつた「君」をかつて共に過ごした部屋で思ひ出しては哀しんでゐる。といふもの。

ポイントは2つ。
まづ、この「君」と「僕」は結婚してゐない。
それは、「薬指に光るはずのもの」を「手紙をつけて送ると決め」ていた、そしてその後の「薬指はあけてて」といふ描写から分かる。
つまり、「君」と結婚する前に子供が生まれた、結婚指輪を送ると決めてゐた矢先に君が消えた、といふ設定である。

そして二つ目のポイント。
なぜ「君はいなくなってしまった」か。
これが明示されてゐないといふのが、この曲の最大の魅力である。余白が効いてゐる。

何かがあつて、恋人は子供を残し出て行くことに決めた。つまり別れることにした。もしくは、事故死である。
文脈的にはどちらもとれる。といふか、一見、出て行つたのだと思へるのだが、しかし別れたのだとしてもその原因らしきものが全く綴られてゐない、仄めかされてもゐないことが引つかかるのである。だから、出て行つたとは限定できず、ゆゑに事故死といふ可能性も浮上してくるのである。もちろん、事故といふのもどこにもないが、結論的に言へば、事故死の匂ひが濃厚なのである。
歌詞を見てみる。

   薬指に光るはずのもの
   手紙をつけて送ると決めた
   言葉浮かばず悩んでた
   やっと書き終わった10枚の紙
   ドアの前で君の帰り待つ
   でも君はいなくなってしまった
   何も知らず僕は眠る
   何度目を覚ませど君はいない

ここだ。この「僕」の何も知らなさ、何度も「君」がゐないことを確かめてゐること。
よしんば出て行つたのなら、何らかの原因のやうなものを思ひ巡らせるはずだが、そのやうな描写は全くない。なぜゐなくなつてしまつたのか、「僕」はまつたくわからない。

原因不明で恋人が出て行くといふ不条理を、俺は信じない。あるひは何も気づかない男の鈍感な心理といふやつも信じない。何より、しかとはわからないなりにも、去られた者は原因を模索せずにはいられないはずで、その痕跡は残す、残つてしまふはずだからである。意図的に叙述しないといふことはあり得ない。ここはレトリックとして省略はあり得ないのである。
といふことは、不慮の死別である。

恋人は、出先で事故に遭い還らぬ人となつた。「僕」はその事実を受け止められない。受け止めたくない。だつて、小さな命を授かつた「僕」は長いこと結婚を言ひ出せなかつたのだが、これからは君と小さな命のために生きると決めたばかりだつたのだ。
さうした、思ひが、淡々と、ときに笑いながら、紡がれてゐるのであつた。

fin.



by ichiro_ishikawa | 2018-04-11 18:06 | 音楽 | Comments(0)  

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