三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』


 三宅香帆の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ。2024年4月に発売され第2回書店員が選ぶノンフィクション大賞2024」受賞、「第17回オリコン年間本ランキング2024」新書部門年間1位など華々しく、刊行から1年半で累計30万部を突破してゐる集英社新書だ。

 読んだのは一昨日の土曜日、最近だ。
 昨年春の刊行時から話題になつてゐたため存在は認知してゐたが、用はないと踏んでスルーしてゐた。なぜ働いてゐると本が読めなくなるのかは、多くの人がさうであるやうに、自分でもすでに考へ尽くしてをり、その答へはもう出てゐたからだ。
 一方、その昨年9月、『30日de源氏物語』といふ本を読んでゐた。源氏物語の準エキスパートの俺をして「とてもよくできた本だ」と思はしめた、名著だつた。
 その著者が、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』の著者であると一昨日気づき、その三宅香帆氏が出した、なぜ働いてゐると本が読めなくなるのか、の結論が気になつて読んでみたといふわけだ。

 結論のやうなものは終章にまとめられてゐる。しかし、本書の見どころは、広く文献を取材した「読書史」である。実際、紙幅の殆どをそれに割いてゐる。その読書史を詳しく辿つた上で、「現代人が」なぜ働いてゐると本が読めなくなるのかを説いたものである。このプロセスがよい。
「現代人が」なぜ働いてゐると本が読めなくなるのか。結論を書いてしまふと、働いてゐると忙しいから、だ。身も蓋もない。

 しかし、面白いのは結論よりプロセス、つまり、「本とは何か」「読書とは何か」の意味が、時代により変遷してゐる事に注目して、令和を生きる者たち、とりわけ働いてゐる大人たちにとつて、本とは何か、読書とは何か、を分析してみせた。この分析が、読書史の最先端である今のリアリティとして秀逸だつたわけだ。

 つまり、現代における、本の意味、読書の意味が重要なのであつた。この意味が「忙しい」に負けるわけである。

 どの時代でも、人は忙しい。忙しくても、本を読む人は読むのである。今の忙しい人の忙しさとは何か。そして、本、読書とは、その忙しさに対して、どのやうに存在するか。

 そして、最後に、その忙しさを克服せよ、といふところまで、本書は言ふ。この物言ひの覚悟と凄み。これがハイライトであつた。

 




by ichiro_ishikawa | 2025-09-23 00:34 | 文学 | Comments(0)

 

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