死刑執行


 宮崎勤と同時期に、陸田真志にも死刑が執行されていた。殺人罪で死刑を宣告されていた陸田真志。故・池田晶子と生前、往復書簡をかわし、「死と生」「善と悪」について実に本質的な対話をしていた彼だ(往復書簡は「死と生きる—獄中哲学対話」に収録)。
 「死と生きる—獄中哲学対話」は、キワモノ的見方をされがちだが、実はま逆、哲学を処世術という意味で使っている数多の自称哲学書とは一線を画す、極めて価値の高い、言葉本来の意味での哲学書だ。強欲の塊だった殺人者が、池田晶子の書と出会い、往復書簡を始めることで思索を促され、更生していくのだが、道徳教条的なところやセンチメンタルな部分は全くない。「善」に目覚め、「生」と「死」の本質を誰よりも掴んでいく様は壮絶極まりない。更生の過程を追った道徳本でもなく、難解な哲学用語や哲学者の名前が出てくることもない、日常語だけで正しく叙述された(=思考された)哲書である。
 先に池田晶子さんが逝くとは思いもよらなかったが、獄中、彼の思索はずっと続いていたらしく、しかもそれを書き留めていたらしい…。稀有な“考える人”がまた亡くなった。

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by ichiro_ishikawa | 2008-08-25 00:43 | 文学 | Comments(0)  

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