2009年 01月 13日 ( 1 )

 

太宰治生誕100年:新春座談会


 6年制の大学をいよいよ卒業できるとふんだ1997年2月、人生最後の大旅行とばかりに2ヶ月の予定でヨーロッパ旅行を計画(計画名「プロジェクトA」原題:A計劃)した俺は、卒業論文を学事部に提出し終えたその足で、グワッとロンドンに飛んだわけだが、数週間後、千葉の実家から「お前、卒業出来ないらしいぞ、先生にすぐに電話しろ」と意外な連絡を受けた。
 急ぎ、国際電話をかけたところ、「“近代文学史II”の点数が2点足らないから卒業必要単位が満たない。追試をやってやろうと思ったが、そっちにいるなら仕方がない、近代文学の作品一つを選び20枚の論文を書け、その出来次第では卒業させてやらんでもない」と、指令を受けた。
 俺はすかさずジャパンセンターで日本近代文学の書籍を探しに出かけ、これで行こうと決めたのが、日本で何回も読んでいた新潮文庫「グッド・バイ」収録の名作「冬の花火」だ(文庫だがここはイギリスなため“洋書”扱いで2000円ぐらいした。そのときのホテルの一泊料金とほぼ同額つけ)。
 ヴィクトーリア駅界隈ベルグレーブロード沿いにあった宿泊先「ホテル・パラマウント」近くのバーガーキングで読書と執筆を続けていたが、思ったより時間がかかり、すでにチケッツを押さえていた次の旅先、アムステルダムへ行く日が到来してしまったため、途中で筆を置き、アムステルダムでやっと傑作を書き上げた俺は、すかさずホテルのロビーから先生の自宅にFAXした(メールなんてない)、という敏腕商社マンのような動きをこなした次第だ。貴重な旅行が、まる4日はつぶれた。

 そんなわけで太宰には一家言ある俺だが、実は卒業以来(卒業出来た)、悪夢を葬るがごとく、太宰は読んだ事もなければ、開いた事もない。
 だが、今春、毎日新聞に「新春太宰座談会」が掲載されていて、その座談主として、今俺がもっとも注目している川上未映子と、大学時代に俺が唯一皆勤した「太宰研究ゼミ」で教わっていた安藤宏教授(97年に俺に試練を課した教授とは別人)が登場している事で、一瞬、俺の中で「1997年の変」が蘇り、ここに一筆認(したた)めたっていう寸法だ。
 
 「生まれてすみません」という、最高のギャグを飛ばして日本文学の大空を掠めて逝った太宰。その2009年初頭に行われた「太宰思い出し会」の模様をここに無断採録する。必読。


太宰治生誕100年:新春座談会/上

 現代の生きにくさを映し出すように太宰治が人気を集めている。価値観が混迷し、閉塞(へいそく)する時代に、「無頼派」作家は何を訴えかけてくるのか。2009年は太宰生誕100年。太宰研究の第一人者である東大准教授の安藤宏さん、作家の川上未映子さん、精神科医の斎藤環さんの3人に、その魅力を2回にわたって語ってもらった。【構成・棚部秀行、写真・岩下幸一郎】

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by ichiro_ishikawa | 2009-01-13 00:15 | 文学 | Comments(0)